本日(2016/10/6)の日経新聞に「賃上げ ぬぐえぬ温度差」という記事があった。財務省、日銀は賃上げを産業界に強く要望、一方、榊原経団連会長および三村日商会頭は賃上げに慎重というスタンスであり、両者にかなりの温度差があるという記事である。産業界が賃上げに慎重である理由として、経団連は、同一労働同一賃金の導入や非正規社員の待遇改善など課題山積の中で、すべての社員の賃上げは難しいといっている。また、三村日商会頭は、消費を上げるのは賃金だけでない、将来不安がある限り消費にはまわらない、社会保障の改革が必要、との考えである。

エージェントベース経済シミュレーションを行えばすぐわかることであるが、経営者が経費削減の一環として賃金を低く抑えようとすれば、それは需要低迷という形で企業の売上低迷をもたらす。すなわち、産業界が集団として賃金低下を図ろうとすれば、需要が低迷し、売上が低迷するので、企業はさらに経費削減が必要となり、負の連鎖に陥ることになる。経営者はこのことに気が付いてほしいものである。元来経営者の果たすべき役割は、売上増加や新規ビジネス創出を実現するための方策を考えることではないか。日本の産業界の現状をみると、その本来の役割が果たせていないように見える。

産業界には、個人営業から大企業まで様々な規模があるので、中小の企業や個人企業にとって経費削減は切羽詰まった課題であり、経団連会長としてはそれら末端までの経営者を代弁する、という視点から賃上げに慎重な姿勢をくずせないのかもしれな。しかし経営者としてのあるべき姿は、労働者の搾取ではなくて、新しい事業の創出・売上増加策の創出である。インタネット時代、かつグローバル化の時代にあって、経営者は、賃金抑制にちまなこになる前に、国際競争力を上げることに血眼になるべきではないか。

人は甘やかせれば育たないといわれる。企業も同様で、政府からの保護政策などで甘やかされれば企業は育たない。むしろ採点賃金や労働分配率を上げることをルール化すれば、それに耐えられない会社は淘汰され、新しいビジネスモデルを考えたり、売上増加を考えらえられる企業のみが生き残り、結果として、産業会の国際競争力の増加に繋がる、というように賃上げをポジティブにとらえるべきではないだろうか。このようにして産業界の新陳代謝を進めることが日本の平均的生産性を向上させることにつながり、賃上げできる会社の増加につながると考える。経団連会長は、そのように産業界の競争力強化に向かって産業界をリードすべき存在ではなかろうか。そうあることを期待する。